【Blog】新刊小説『眩光の彼方』~夢を叶えた先に、幸福や成功は本当にあるのか?

8月8日に、祥伝社さんより新刊小説『眩光の彼方』を刊行しました。今回は、この小説が生まれるまでのお話を書かせていただきます。

プロ野球のスカウトを取り上げた理由

この小説の主人公は「プロ野球のスカウト」です。私は15年ほどフリーライターとしてプロ野球の現場を取材し、現在は野球界を支える立場で引き続きいくつか野球関係の仕事をしています。その中で「スカウト」という職業には、ほかの職種には見られないドラマがあると感じていました。

ライター時代は「いつかスカウトのノンフィクションを書きたい」と思ってスカウトさんや球団職員さん、選手たちからもいろんな話を聞いていたのですが、スカウティングの話はなかなか実名を出すことが難しかったり、各スカウトの交渉術の部分は書けなかったりするので、ノンフィクションで書いたとしても中途半端なものになってしまうなと感じていました。

また、スカウトのノンフィクションを書いたとしても、それを読んでくれるのはおそらく野球ファン、しかもかなりコアなファンに限られてしまいます。でも小説という形であれば、文芸ファンの方々が手に取ってくれるかもしれない、そして普段小説を読まない野球ファンも、そのテーマだったら興味を持ってくれるかもしれない。そう考えて、今まで聞いてきたリアルな話を交えて小説としてまとめてみよう!と思ったのです。

プロアマ規定の撤廃を願って

この小説を書くにあたっては、私の中でとても大事なテーマがありました。野球界には「プロアマ規定」という、野球をあまり知らない人にとってはびっくりなルールがあります。これは「プロとアマチュアの選手は原則として交流禁止」というルールです。今まさに夏の甲子園で奮闘している高校球児たち、彼らもプロ野球選手から指導を受けることや、プロ野球選手と交流することを「プロアマ規定」によって禁止されているのです。

そのルールができたのは、わかりやすく言うとスカウティングによってプロとアマの間で不当な金品の授受があったとか、そういう一部の悪い大人たちがいたためです。よって、プロ野球のスカウトも「プロアマ規定」により、スカウティングの際にアマチュア選手たちと直接話をしたり、交渉したりすることはできません。

百歩譲ってそれは仕方ないとしても、なぜスカウティングに直接関わらない現役のプロ野球選手が、自分の母校で野球部員と練習することまで禁止されなきゃいけないんだよって話なんです……。それなのに、現役プロが母校に防球ネットや硬式球を寄贈するのは認められています(それだって賄賂性がなくはないですよね)。実に曖昧で意味のないルールで、球児はそんなルールのために成長する機会を奪われているのです。

私はこれまで「プロアマ規定はおかしい」とずっと喚いてきましたが、野球界ではまったく相手にされませんでした。一人の(しかも女性の)ライターがそんなことを叫んだって野球界は変わりません。結局、日本の古い組織は「外圧」でしか変わらないのです。

この小説では、この「プロアマ規定」があるからこそ、スカウトが翻弄され、若者がその悪しきルールに巻き込まれていく様子も描いています。それは「プロアマ規定はおかしい」ということを、野球界の外から訴えたかったから。この本を読んでいただくこと、そして読者の皆さんにプロアマ規定がおかしいと知っていただくことが、未来の球児たちを救うことにきっと繋がる!この小説にはそんな思いも密かに込めました。

犯罪の加害者家族を描く

そして、この小説ではもう1つ、「加害者家族」という難しいテーマも扱っています。

プロローグは、とある青年が闇バイトで逮捕されるシーンから始まります。その青年は、その前の年にプロ野球球団から戦力外通告を受けた元プロ野球選手。この犯罪によって、彼の家族がどんな立場に追いやられるのか。また、彼をスカウトした人間はどんな思いを抱えているのか。

家族とは何なのか。「支える」とは何なのか。アスリートのセカンドキャリアの問題も叫ばれる昨今、この一家の悲劇と再生、スカウトの葛藤にもぜひ注目していただきたいです。

タイトルに込めた思い

私は社会に出て、プロアスリートのマネージャー、スポーツライターを経て、今は作家としてキャリアを歩んでいます。ずっと「夢を叶えた人たち」と一緒に仕事をしてきて、私自身もまた、いくつか夢を叶えてきました。

しかしながら、みんながみんな幸せなのか、成功者なのかというと、そういうわけでもありませんでした。この小説では、私がこの目で見てきた華やかな世界に潜む闇を描いています。

『眩光の彼方』の「眩光」というのは、眩しい光の先にある「夢」をイメージしました。「彼方」は遥か向こう、つまり眩光の彼方とは、「夢の向こう側」を意味しています。

”夢を叶えた先に、幸福や成功は本当にあるのか?”

それが、この小説のテーマです。
警察官の職を辞してプロ野球のスカウトに転身した主人公・真柴瑞稀。
かつて自分がプロに声を掛けた選手が戦力外通告を受け犯罪者になってしまった過去を持つ、スカウト部長・瀬崎哉。
瑞稀と瀬崎の視点を通じて、「夢を叶えるとはどういうことなのか」を一緒に考えていただけたら幸いです。

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